第4回ローカルサミットin南砺 – 南砺宣言

今年も全国から志民が集まった。深い精神風土に彩られた「土徳の里」富山南砺に。

いのちが、今、脅かされている。9.11から10年が経過し、100年に一度の金融危機を経て、グローバル資本主義の混迷の度は増している。そして、3.11に我々に襲いかかった1000年に一度の大震災と津波という自然の災禍と原発事故という人間の災禍は、半年を経過した今もそこからの復興の道筋が見えていない。目に見えない敵となった放射能の不安と恐怖に、未だ怯えている。

この間、戦後の日本経済社会は、世界的交易の輪の中に自らを組み込み、全てお金で暮らしを、いのちを購えると確信してきた。しかし、今回の東日本大震災と原発事故はその象徴ともいえる首都圏の自立していた暮らしの虚構性を浮かび上がらせた。

これまで成長、効率、高齢化等の観点から世界の最先端をひた走ってきた我が国が、脅かされている「いのち」をどう自立的に回復させ、「いのち」を次世代に確実に継承できるのか、諸外国も注目している。

こうした課題を胸に、ここに集まった志民は、過去3回のローカルサミットでの議論に今一度思いを馳せた。

即ち、人類・いのち・地球が直面する危機は、グローバル資本主義に起因することを確認し、これまでの延長線上ではなく、忘れかけている地域の仕組み等に解決の糸口をみつけ、場所文化を甦らせいのちの原点に立ち戻る「ものづくり生命文明」の構築をめざす。

そして、我々が希求するいのちを繋ぐ「ものづくり生命文明」は、「確かな未来は懐かしい過去にある」という確信に裏打ちされた「逆ビジョン」によって、ローカルから構築され、従来のお金で全てを計ろうとするものさしに変え、もう一つの「いのちのものさし」を携えて、多様性溢れる豊かな海と森、水に恵まれた自然に抱かれた日本の原風景の地域から、いのち輝く「懐かしい未来」を早期に再構築していくことを確認してきた。

更に、そうした持続可能な地域社会の構築に向けて暮らしの各分野の見直し、再生の具体的指針等を熱く議論し、提示してきた。

そして、今年この南砺では、更に東日本大震災と原発問題に直面し、今こそ、戦後66年間の物質文明追求の都市中心の社会システムのあり方を総括し、深い祈りと共に、東日本の復興を通じて、ローカルからの「新たな暮らし方」によるいのち輝く「環境生命文明」の地平を切り拓かなくてはならないと確認した。

その時、従来からの成長・効率のグローバリズムの延長線上に、確かな未来への希望は無く、ローカルからの、人と人、人と自然、生者と死者、更には人と技術、との確かな関係性を取り戻す「いのちの紡ぎ直し」による「地域の自立と連携」が必須であり、また人智の及ばぬ形で永遠にいのちの価値を捨て去ろうとする原発問題にもきちんと対峙しなくてはならないことも共有した。

この文明史論的な転換点、言わば日本にとっての「第二の戦後」にある今、覚悟を持って価値観と暮らし方の転換を図らなくてはならないと深く心に刻み、3日間を過ごした。

初日、二日目は、山深い利賀村で、懐かしい確かな暮らしにふれると共に、「瞑想の郷」を中心に、キースピーチと瞑想を通じて、人間が自然から離れすぎた現実に対し、海・里・森からの祈りあふれるいのちの生業の大切さと人と人、人と自然、生と死の確かな関係の再構築から価値観の転換を図らなくてはならないことに思いを深め、その上で、地・水・火・風・空に分類された9つのテーマ別分科会で東北の復興と日本再生に向けた「新たな暮らし方」の具体像について熱く議論し、志民の交流・連帯の輪も広げた。

そして最終日には、城端の里に降り、逆さ日本地図の中からアジアの視点から森里海を通じる「いのちの連環」の姿を掴み取り、更に「首長サミット」を通じて東北の復興が目指すべき姿や日本再生に向けた「地域の自立と連携」における志民と首長との新たな関係の構築にも議論を深めた。

我々志民は、3日間を通じ、「いのちの紡ぎ直し」をキーワードに議論し、眼前に生じた都市起点の巨大システムの瓦解に対し、もう一度等身大のローカルからの確かな「いのちの繋がり」を取り戻すには、お互いに、「目に見える関係性」を外に開きながら共有していくコミュニテイーの再構築、いのち巡る「小さな循環」の形成と連携が必須であることを明確にした。そして、我々が以下のように描き出した東北の復興に向けた継続的支援の方途と地域からの日本再生プランは、9つのテーマ毎のアクションプランが相互に連環しつつ具体化されなくてはならないこと、そしてその起点は、いのちの自給・自立であることも深く確認した。

 

<東北復興への継続的支援の方途>

  • 復興協同組合や復興会社設立等による志民と行政、および非被災地との協働・支援関係の構築をベースにした復興支援活動の推進
  • 流域ごとの森里海連環によるいのちの自給・循環体制の構築と都市との支え合いの継続
  • 食・エネルギー・健康医療の自立・自給モデルの構築・具体化し、アジアにも発信する
  • 目に見える関係性の構築による相互交流特に子供達等の継続支援の強化
  • 放射線対応を含む女子および高齢者に対する健康医療・介護福祉面での支援体制の拡充
  • 共通の祈りの形を作りあげながら自然・風土の復興支援を図る
  • 豊かな金融資産を活用した継続支援のための温かなお金の使い方の創出(復興支援通貨や二重ローン問題対応等)

<地域からの日本再生プラン:「新たな暮らし方」とは?>

  • 新たな豊かさの起点を、衣食住の自給に据え、農的暮らし(=いのち育む生業)への人々の関わりを増やすことで、人と自然の関係を取り戻していく。
  • いのちの自給は、農林水産業の再興、エネルギーの地域内自給、健康医療の地域内自立をコアとする、「小さな循環」の形成と連携によって実現していく。
  • 地域資源を活かした志民によるエネルギー自給会社の設立によって、地域資源を見直し、地域と国等との関係性や国の政策にあり方の変革を促す。
  • 森里海連携による地域再生やエコビレッジ構想等の具体的モデルをアジアの地域社会再生に役立てていく。
  • 土徳に化体されたいのちの繋がり、お互い様、お蔭様を次世代に継承していくためにも子供達はかけがえのない存在であることを生活の中で再度徹底していく。
  • 精神の向上を至上の価値とし、共同体を支える共有する祈りを創出していく。
  • まちづくり会社等を通じ、志民と首長・行政の連携の枠組みを構築していく。
  • 地域内で雇用を生み、お金が廻っていく新しい金融を模索し、資本主義を補完する志本主義の構築を目指す。                  」

改めて要約して言おう。

今回の東日本大震災と原発事故は、すでにグローバル物質文明・資本主義・近代の巨大システムが限界と綻びを露呈して移行・調整過程を模索している転換期に、転換の方向性を後押しする形で発生した。

一方で、我々を取り巻く、この戦後66年間に物質的豊かさを追求し構築してきた近代の都市型社会システムは、様々な巨大システムの複合体としてあり、我々の日常生活の隅々にまで及んで日々を規定して、そこからいのち・身体が皮膚感覚で無事だと感じられる暮らし・社会を築き直すのは決して容易ではない。特に、当面のアジア・世界の経済発展が、近代パラダイム・巨大システムを貫徹させる方向で進みつつあるこれまでの展開からすると、その変革もなくては、21世紀を通じた世界全体の未来は無いと確信する。

このような日常生活を含む広く世界を取り巻く巨大システムの大きな存在に対して、我々は、上述のように、食とエネルギーと健康医療等のいのちの分野での地産地消・自立分散を「小さな循環」の中から具体化し、無事な暮らしの構築をローカルからの「いのちの紡ぎ直し」をベースに東北の復興を起点に日本で新たに起こし、世界に可視化していこう。そして、このローカルのうねりを様々なレベルでの国のあり方・政策の修正という形で巨大システムにフィードバックさせながら、巨大システムの内部からの軌道修正を誘発させ、アジアへも強く発信しつつ、その自己制御を同時に促していくという両面戦略を、覚悟を持って力強く展開していこう。

世界的な食料問題、人口問題、地球温暖化問題、そしてグローバルマネーの行方等は、緊急の課題となっており、そうした制約条件の強まりは年を追って厳しさを増している。

そして、特に原発事故は、次世代のいのちに未来の時間を失わせ、いのちの希望を絶やそうとしている。次世代にきちんといのちを繋ぐことを最優先しなくてはならない。

こうした中で、東北の復興は必ずしも短時間で成し遂げることは容易ではないが、日本全体の英知を結集し、かつ様々な形で目に見える関係をローカルから再構築していくことで支援も継続し、いのちを未来へ繋ぐスピードを加速させていかなくてはならない。そして、その過程で、日本の戦後経済社会の再構築、新生も必ず実現させていかなくてはならない。

今から200年前、二宮尊徳の「報徳仕法」が、現在の原発被災地の多くに及ぶ相馬地区で、南砺地方からのいわゆる「入り百姓」との連携のもとで実践され、当時の厳しい自然・社会環境のもとで、強い祈りを込めた共同的な自然への働きかけ・ものづくりによって、いのちの輝きが増し、当地区全体の社会再生が実現した。そこに現れたような、厳しさと温かさあふれる「土徳」の力、この南砺が本来持ってきた精神風土こそが、今の東北復興と日本再生に求められているのではないかと強く感じた。

我々が今希求する、確かないのちが未来へ繋がる「環境生命文明」の扉は、こうした祈り豊かな精神風土に裏打ちされた懐かしくも確かな「ものづくり」、「ひとづくり」、「関係づくり」をきちんと取り戻すことによって開かれると確信する。

平成23年9月25日

富山・南砺にて

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